ジャニーズWEST『to you』 ~「別れ」を言わずして「別れ」の曲を書くすごさ~

はじめに
はじめまして、あいりすと申します。
少し自己紹介をすると、一昨年沼落ちした赤橙寄り虹色ジャス民3年生で、普段は絵を描いたりしながらゆるっと応援しております。重岡さんの書かれる曲が本当に素敵で大好きで、語る場を求めて、ブログを始めようと思い立ちました。
ここでは、重岡さんの楽曲を中心に、WESTの楽曲について私が思ったこと、感じたことを綴っていければなと思っています。どちらかというとメロディーよりも歌詞に比重の寄った記述になるかと思います。あと、どれもめちゃくちゃに長文になります!どうぞ、途中息継ぎしながら読んでいただけたら!!よろしくお願いします。

 

第0章 ブログの構成&曲紹介

【1】ブログの構成

まずは、重岡さん新作『オレとオマエと時々チェイサー』収録の18thシングル・「黎明/進むしかねぇ」明日19日発売!!おめでとうございます!

↓リンク貼っておくので良かったらどうぞ新曲も!↓


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さて今回のブログでは、たくさんの楽曲がある中で(重岡さん詞は「オレと~」含め9曲書かれているそうです…すごい)、めちゃくちゃに迷った結果「W trouble」通常盤に収録されています、『to you』について語っていこうと思います。

これからの運営は未定ですが、今回は
「第1章 感想編」「第2章 考察編」の2本仕立てで構成しました。
第1章では、『to you』に関して歌詞や曲を聴いた感想や、重岡さんの楽曲の世界観とその魅力について自由に語っています。一方第2章は、『to you』の歌詞をいろいろな視点から読んでみて、その解釈を個人的にまとめたものになっています。各章は独立しているので、どちらから読んでいただいても大丈夫です。
第1章 感想編へ
第2章 考察編へ

余談ですが、タイトル「巻末ページ」というのは、よく単行本などで見かける、巻末にある作者以外の方が付ける解説のページをイメージしています。解説は恐れ多く、また内容的にも及びませんが、感想と解釈を思いのままに書いていくスタイルでやっています。
※作曲などの知識が乏しいため、曲構成の説明(Aメロ, Bメロ等)に誤りがあるかもしれません。大目に見ていただけると幸いです。

【2】曲紹介(※ご存じの方は読み飛ばしてください!)

ここでは、曲についてご存じない方に向けて、ごく簡単に曲の概要や雰囲気を紹介します。もう知ってるよ!という方はどうぞ読み飛ばしてください。

『to you』作詞 重岡大毅、作曲 重岡大毅、編曲 ha-j
『to you』はアルバム6枚目「W trouble」の通常盤にのみ収録の楽曲で、ジャニーズWESTのセンター、重岡さんが作詞作曲を手掛けた楽曲です。(重岡さんは俳優として大活躍していますが、作詞作曲もコンスタントに行っています。2021年は4曲、さらに2022年は明けて早々の明日、新曲が出るなど、その制作スピードには驚きますし、ファンとしてはその才能に毎度毎度尊敬するばかりです。)重岡さんの曲の中では作詞としては3曲目、作曲は2曲目にあたり、初めてユニット曲ではなく、WESTメンバー全員で歌った曲になります。同アルバムの初回限定盤Bの方には、重岡さん、小瀧さんのユニット曲である『do yo know,  girl??』が収録されており、この楽曲も重岡さんは作詞作曲(※小瀧さんと共作)を手掛けています(この曲もギミックがいろんな意味で相当すごいので笑、いつか語りたいです)。『to you』は「別れ」がテーマの曲ですが、明るいメロディーが特徴で人気の高い曲です。ライブDVDのダイジェストでサビの一節が聴けるので、良かったら聞いてみてください。リンクを貼っておきます。(前述の「do you know, girl??」も少し聴くことができます。)


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※『to you』3:36~です。

 

第1章 感想編

前置きが長くなりましたが、そろそろ本題に入りたいと思います!
前述の通り、『to you』は全体的に「別れ」がテーマの曲です。いろいろな「別れ」がある中で、私は別れといいつつも、永遠でない別れ、人生の新しいステップに向かう旅立ちの日のイメージを強くこの曲から感じています。(ほぼ第一印象で、初めて聴いた時からのイメージですが、これを書くにあたっていろいろと見方が変わった部分もあります。第2章で詳しく書きます。)例えば、印象的なのはBメロ

永遠だとか 一生なんてな

どこにあるんだ

 

もう 探さない 見つからない

また一人 また一人

それぞれの道 歩いてく

どいつもこいつもいい顔で

詞を読んでいて、なんとなく若い感性というか、若さゆえの別れに対する葛藤や悩みが表現されている気がします。若いときって「人生とは何か?」「人はなぜ出会い別れるのか?」とか無性に哲学するものですが(筆者にもそんな時代がありました、懐かしい笑)、そんな誰もが通るような悩みも、重岡さんは
「永遠だとか 一生なんてな どこにあるんだ」
とフランクに、そしてやわらかい曲調で表現してくれます。悩む自分に言い聞かせる独り言のようで、聴き手に語りかけて安心させてくれるような響きもありますし、フランクさの奥には、同じように悩んできた経験と、それを乗り越えてきた大人だからこその余裕と包容力を感じます。重岡さんご自身もこんなふうに悩んで成長されてきたのかもな、などと想像を巡らせてしまいますね。日常や心のうちを丁寧に描かれることが多いからか、曲というフィルターを通して、重岡さんの歩まれた軌跡や見てこられた景色を垣間見たような気になるのかもしれません。
そしてサビへ続く、
「それぞれの道 歩いてく どいつもこいつも いい顔で」
やはり永久の別れを惜しむような、しんみりした雰囲気ではなく、悩んだって答えは出ないし、くよくよ考えるのはやめよう、明日から新しい道へ進むんだ、前だけを見よう!というすがすがしさを感じます。「どいつもこいつも いい顔で」を桐山さんがとても明るく歌っておられるのも、そう感じる所以かもしれません。どこか卒業式の、寂しさはんぶん、ワクワクはんぶんみたいな、あの感じを思い出します。卒業式のイメージがあるのは、やはり2番Aメロ

お前の恥ずかしい過去知ってるぜ

お互い様か ネタには出来ないな

の影響も大きいような気がします。ここは、原曲で歌割りがばどのお二人というのもあり(W troubleのライブ、このシーンエモかったな…)、昔からずっと一緒だった友だちへ向けた言葉と捉えることができます。親しげで明るい口調なのがイメージできるのに、そこはかとない寂しさが漂う。相手にちょけて「お前の恥ずかしい過去知ってるぜ」と言ってみようとするけれど、別れの寂しさからか気後れして言えなくて、「お前」を前にして心の中でつぶやく。そんなストーリーが見え隠れしているように思います。卒業式らしい。こんなにも想像が膨らむような、この2行に詰まった言葉選びのセンスと表現力の高さ。重岡さんの詞の凄さと魅力の両方をうかがい知れる、最強のフレーズだと思います。

明るさと暗さの両面という点で言えば、この曲、歌い出し(1番Aメロ)も凄さを感じるところです。

思い出し笑いできるんだ

あの日々僕の足元を照らすんだ

何とかなるって 夜明けの魔法すがろうか

でも何もかも失くしたくない

まず、「思い出し笑い」なんてキャッチ―なフレーズから始まる曲、そうそうない気がします(歌詞としても珍しいのではないでしょうか)。その辺りも大いに注目したい点なのですが後回しにして、戻ってこの節全体をもう一度読んで頂きたいと思います。<➡歌詞へ戻る>

さて、皆さんはこの4行に何を感じたでしょうか。それぞれ違うとは思いますが、とても前向きな感じを受けるのに、少し寂しさというか影があるように感じるのではないかなと思います。…すごくないですか?何がすごいか。ここ、一文一文を見てみると、明るいイメージや前向きなイメージがあって、寂しさなんてどこにあるの?という感じですよね。でも4行を通して読んでみると、主人公が別れに向かうことが読み取れて、寂しい感じ、心に隙間風が吹く感じがしてくる。この主人公には、近く過ぎ去ろうとしてしまう時間があるんだな、誰か大切な人たちとの別れが迫っているんだなと感じ取れます。「別れ」なんて単語は一切使っていない。それでも「思い出し笑い」「あの日々」「夜明けの魔法」といったポジティブなキーワードと、無駄のないスリムな表現で、この状況を受け手に想像させるわけです。行間を言葉で埋めてしまうのではなく、言葉は最低限にとどめ、行間に幅を持たせる。そして受け手の想像に委ねる。作詞家・重岡大毅としての真髄がここにあるように思います。
なおこの歌い出しについては、後ほど2章考察編でまた異なる視点から扱います。併せてお読みくだされば幸いです。

畳みかけるようなCメロも惹かれるものがあります。

どれもこれも何もかもって

大事なもんはどんどん増えてって

自分ってなんだろ 人生ってなんだろ

何だっていいじゃん love you やっちゃいな

こうやって詞を読んでいても、一番熱くて、メッセージが込められているのが伝わります。生きていると、辛いことが重なって苦しくなることもあるけど、楽しいからこそ、幸せだからこその辛さもあります。特にそれを手放したり、それが過去のものになるとき、その辛さは身を切られるような痛みを伴います。いつまでも過去の良い思い出に浸っていることはできないし、楽しいことにだって上限がある。ときに自分の気持ちを裏切ったり、自分に鞭打って辛さに向き合わなきゃならない。こんな辛さ/楽しさが目まぐるしく切り替わるとき、「自分」や「人生」の意味を問いたくなるのが人情です。この気持ちをリズムよく、悲観的になりすぎることなく吐き出させ、徐々にギアを上げてメッセージの最骨頂へとバトンを繋ぎます。
「何だっていいじゃん love you やっちゃいな」
一見突き放しているようにも見えるけど、悩んでいるときに聞いたら、きっと気持ちが楽になることばだと思います。慰めと信頼の距離感がちょうどいい。それに「you やっちゃいな」。ここはジャニーさんの口ぐせとして知られている言葉です。ジャニーさんへの想いを乗せた、特別な詞となっている気もします。それに、重岡さんたちご自身が、悩んでいるときにジャニーさんから掛けられ、気持ちが軽くなったことばなのかもしれませんね。メッセージ性が強くて熱さがあるCメロですが、神聖で美しくもあり心が震えます。

サビは一番、重岡さんの楽曲の魅力が詰まっている部分でしょう。語りたい箇所が山のようにあります。1番のサビを引用します。

じゃあな じゃあな 寂しくなるぜ

全てが 全てが 恋しくなったって

放物線を空に描こう

あなたへ届け 虹色のピース

ありがとう ありがとう 旅立つ背中に

いつか僕は僕で 待っていて 見守って

一人帰り道 口ずさむ

新しいメロディー ふっと笑った

まずは、好きな表現の話からさせてください。

この曲を初めて聴いたとき、一番印象的だったフレーズが、サビの「放物線を空に描こう」でした。分かり合える方いらっしゃるかな。「放物線」なんてワード、なかなか曲で出くわさないし、教科書にある(しかも数学とか物理?)ような単語なのでとにかく印象が強い。しかも唐突に出てくるので、なかなかに面食らった記憶があります。でもこの後、「放物線を空に描こう あなたに届け 虹色のピース」と続くんですよね、すごくしっくりくるんです。文の意味が通るだけでなく、「放物線」がキャッチボール的なイメージで「届け」と、そして見た目のかたちという点で「虹」に掛かっている。純粋にすごいなと思います。
重岡さんの詞を読んでいると、ワード自体は違和感があって引っかかるものが多いのに、フレーズで見ると自然でしっくりくるということがよくあります。しかも、このフレーズが一度聴いたら心を掴んで離さないという、独特の魅力をはらんでいる。なぜ重岡さんの楽曲は、そこまで心惹かれるものがあるのか。言葉選びと言葉の組み合わせ方が絶妙だもの、といってしまえばそれまでですが、ブログですし、もっと深く考えてみようかなと思います。
まず、大前提として、狙ってインパクトのある言葉をチョイスしているわけではないということです(「おい仕事ッ!」は言葉遊びが前面に押し出されているので、ここでは例外)。たまに「やってんな」というくらい強めの言葉を並べた楽曲もあります。それも表現方法の一つとして確立しているわけですが、重岡さんの楽曲はそこには当てはまらないと思います。なぜなら、流れに無駄がなく自然ですし、言葉が全体の流れに先行することがないからです。このように単語に対してその流れが自然というのは、文脈がその単語を必要としているためです。つまり、先ほどの「放物線」の例でいえば、ここの表現は「放物線」でないといけない、「放物線」以外の単語は考えられないのです。重岡さんの楽曲ではインパクトのある言葉が、[アクセサリー]なのではなく、必要不可欠な究極の表現であり、[スリムさ]を追求した結論なのだろうと感じています。だからこそ、たとえ奇抜な言葉を使っているように見えたとしても、それが鼻につくようなことはなく、逆に心を打つものになっている。計算してできるものではないと思うし、これは本当に先天的にせよ後天的にせよ、重岡さんの突出した才能なのだろうと思います。(もし計算だったとしてもすごいから!)外からは見えにくいところにも輝くものを持っているって、かっこいいなあと改めて思います。

サビの魅力は他にもたくさんあります。次にお話したいのは、

(1番サビ)

一人帰り道 口ずさむ 新しいメロディー ふと笑った

(2番サビ)

一人帰り道 この胸に 止まらないリズム ふっと感じた

(大サビ)

一人帰り道 立ち止まる 懐かしい声に

サビ「一人帰り道」シリーズです。

めちゃくちゃ情景が思い浮かぶし、何とも言えないエモさ、フィルム映画のような温かさが感じられて好きなところです。
一人帰り道。詳しいシチュエーションは分からないけど、どことなくさみしさが漂いますよね。夕方っぽいような。きっとあまり人が通らないような道を歩いていて、少し心細くなったのでしょうか。気を紛らわすため小声で口ずさんでいたら新しいメロディーが不意に出て嬉しくなった…。すごく《ありそうな》光景で心が和みますし、曲作りは地元をバイクで走らせているとき、銭湯の行きかえりにも思いつく、というお話を聞いていると重岡さんご本人の体験なのかなとも想像が膨らみます。2番と大サビのフレーズも、1番の「メロディー」に続き、「リズム」「声」と聴覚に訴えかけるような表現に統一されていたり、2番の「止まらない」と大サビの「立ち止まる」1番の「新しい」と大サビの「懐かしい」が対比になっているようで、小さな発見に心がときめくと同時に、おしゃれだなあと感嘆してしまいます。
先ほどフィルム映画のような暖かさがあると書きましたが、重岡さんの書かれる歌詞の魅力の一つに、誰もが目にしているであろう日常的なことがらを取り上げている点があると個人的に思っています。些細な日常の風景やできごとをメロディーに乗せていくことで、華が添えられるというか、モノクロの景色に色がついて鮮やかにきれいになっていく…。そんなふうに感じます。どちらかというと、パキッとした色合いでデジタルイラストやアニメを想起させるような楽曲が昨今多い印象の中、重岡さんの書かれる曲の印象は絵本や水彩画から受けるような素朴な暖かみがあり、どこか懐かしさを感じます。このような印象に、言葉のおしゃれな要素とモーションがプラスされて、フィルム映画のような印象を受けるのかもしれません。

最後は、これです。サビのスタート。
別れる人に掛ける言葉に「じゃあな」と「あばよ」と「またな」。すごく重岡さんが言いそうなので、担当としてはほっこりしてしまいます。「さよなら」とか「ばいばい」とか(メロディーに合わなすぎるけど…笑)いろいろ別れの言葉がある中でこの3つなのは、等身大の重岡さんを直に感じられるようで、ファンとしてはうれしいです。ここの部分、「じゃあな じゃあな」「あばよ あばよ」「またな またな」と音が2回重ねられています。それぞれの言葉は別れの挨拶としては軽い感じがしますが、言葉を重ねることで別れを惜しむ気持ちがにじみ出ている気がします。また、ここに続く歌詞は、一見別れが最後じゃないんだよ、と力強く呼びかけているようにも聴こえるけれど、実は自分にも言い聞かせているようにも感じとれます。聞く人の背中を押しているようで、直面している別れを言葉で支えないと押しつぶされそうな少し弱い自分もいる。すごく人間らしいんですよね。重岡さんはいろいろなバラエティ番組で「一般人」などとイジられていますが、ご自身がキラキラしたアイドルであっても、こういうところが苦しいんだ、悩んでいるんだと詞や言葉を通して打ち明けてくれたり、みんなもこういう気持ちあるよね?って共感してくれたり(WESTV!の「間違っちゃいない」の演奏前のスピーチ、とても心に響いて感銘を受けました)、本当に良い意味で《一般人》なんだなと感じています。飾らず、おごらず、一般の人の気持ちも理解してくれる。とても素敵で、そんな自担のスタンスが大好きです。

 

いろいろ語ってきましたが、『to you』の全体的な印象と特徴に話を広げて、第一章のまとめとしましょう。
『to you』の特徴だと思うのは、1曲通してほぼ語り口調という点です。これは重岡さんの作品全体にも言えることかもしれませんが、特に『to you』は詩的な情景説明が少なめで、逆に心情表現がより丁寧であるように思います。重岡さんの詞は、『to you』もそうですが、ある主人公の目線でストーリーが展開されることが多いです。ここに共感性のある丁寧な描写と高い表現力が加わり、聴き手をスッとその物語へ連れて行ってくれます。この上で語り口調というのは、重岡さん自身のまっすぐで照れ屋なご性格を鑑みると(重岡さんのソロラジオなんか、自分語り多めの良きラジオだったなあと思ってると次の週はしっちゃかめっちゃかだったり…がしょっちゅうで、照れ屋さんな部分出まくってて可愛いなあと思うこの頃です笑)、その物語の中に、ご自身の経験や心情、考えを反映する上である種のクッション的な役割をしているように思います。(ちなみに重岡さんと同様作詞作曲を多く手掛けている神山さんは、伝えたいことと聴き手の間に定規で直線を引くかのように、まっすぐド直球な切り込み方をされている印象で、重岡さんとは真逆な気がしてます。かみしげ…) また、別れという、ややもするとメッセージが先行して押しつけがましくなりそうなテーマの中で、語り口調はやわらかい雰囲気と親しみやすさを作りだして、唯一無二の別れの曲になっているのだと思います。

今まで重岡さんの作る曲を聴いてきて感じるのは、繰り返しになりますが、直接の言葉は書かないのに、心情や状況が聴き手にスッと入ってくるような表現が秀逸で特別だということです。多くを語らない代わりに、多くを、もしくはそれ以上のものを受け手に想像させる。こうして彼の書く詞は、作り手と聴き手が一体となることで初めて、あの独特の世界観を生み出すのだろうと思います。聴き手が必要なのはどのアーティストも同じかもしれませんが、重岡さんの楽曲は意味合い的に一線を画していて、聴き手がいてこそ、曲がさらに数段上に昇華され、そして完成される。しかも受け手によってそれぞれ違う完成形ができあがる。曲から無限に世界が広がるという感覚が、他の曲にはない特別さだと感じます。こんなにも稀有な才能を持つアーティストに今出会えていて、彼の創る曲にこうしてリアルタイムで触れる境遇にいるのは、とんでもなく幸せなことなのかもしれないなと改めて思いました。

以上、第1章感想編でした。お読みいただきありがとうございました。
第2章考察編に続きます。

第2章 考察編

【1】サビの解釈

第1章で、私はこの曲から、いろいろな種類の別れの中で「卒業式的な」別れを感じるとお話しました。しかし、この文章を書くにあたって、『to you』の歌詞を改めてじっくり読んでみたところ、「こういう読み方、捉え方もできるんじゃないか…!?」といろいろと深読みする事態に陥りました。
1番サビ2番サビ大サビを引用してみます。

(1番サビ)

じゃあな じゃあな 寂しくなるぜ

全てが 全てが 恋しくなったって

放物線を空に描こう

あなたへ届け 虹色のピース

ありがとう ありがとう 旅立つ背中に

いつか僕は僕で 待っていて 見守って

一人帰り道 口ずさむ

新しいメロディー ふっと笑った

(2番サビ)

あばよ あばよ 会いたくなるぜ

でもな でもな 今はまだ早いね

一人帰り道 この胸に

止まらないリズム ふっと感じた

(大サビ)

じゃあな じゃあな 寂しくなんかないぜ

またな またな 今じゃないどこかで

放物線を空に描こう

あなたへ届け お決まりのピース

ありがとう ありがとう 旅立つ僕らに

あの日の僕らが 待ってるって 見守ってるって

一人帰り道 立ち止まる

懐かしい声に

中でも一番サビと大サビの歌詞に注目してみると…

(1番サビ)「寂しくなるぜ」
 (大サビ)  「寂しくなんかないぜ」
(1番サビ)「ありがとう ありがとう 旅立つ背中に
 (大サビ)  「ありがとう ありがとう 旅立つ僕らに
(1番サビ)いつか僕は僕で 待っていて 見守っ
 (大サビ)  あの日の僕らが 待ってるって 見守ってるって

めちゃくちゃきれいな対比になっている…!!(すでにできている…!!のテンション!)1番サビと大サビって、呼応してるんですよ…!私、これに初めて気づいて、大発見!!って小躍りしたのですが、もう皆さん通られた道でしょうか…。私は曲を聴いているとき、音が先行してしまうタイプの人間なので、詞の深い意味まで頭が回らないんですよね…うーん悩ましい。(中間さんの『"Pinocchio"』のときはもれなく頭こんがらがりました、今も普通に聴いているときは詞のことはあまり考えられていないです、中間くんごめんなさい)

言葉を追っていくと、1番では「あなた」が旅立ち「僕ら」はそれを見送る立場。逆に大サビ「僕ら」が旅立つ側で、「あの日の僕ら」に見守られているというふうに読めそうです。さらに大サビの「僕ら」は、1番の「あなた」が旅立った場所へ旅立つと考えることができるのではないでしょうか。さて、旅立つとはどこへ…?はたまた、「あなた」って誰…??
ここでは、第1章でお話しした以外の解釈について、考えてみたいと思います。

【考察①】「あなた」は天国の恩人…??

確か筆者の記憶では、重岡さんはこの曲の《別れ》について、以前ラジオで「故ジャニーさん」も意識したと仰っていたかと思います。(1章の方でも触れた通り、これは「you やっちゃいな」からも読み取ることができます。)これは1番で、「僕ら」が、旅立つ「あなた」へ「ありがとう ありがとう」と呼び掛けていることからも、「あなた」がお世話になった相手と読めますし、その意味でも恩人説は当てはまりそうです。では、肝心の旅立つ「場所」とは…? …天国????(※ここでは、亡くなった方が行く世界を指して「天国」という言葉を使っています)
いやいやいやいや、それはないでしょ、となりますよね。もし天国だとしたら、大サビで「僕ら」は死んでしまうことになりますから。でも、場所を天国と捉えて読むと、意味が通らなくもないような…。とりあえずサビに限って、この視点から見ていきたいと思います。

1番<歌詞参照はこちら>の時点では、「僕ら」は元気で、天国へ旅立つ恩人を「寂しくなるぜ」「恋しくなったって」と惜しんでいます。その「旅立つ背中」に、「ありがとう」そして天国で「待っていて」「見守って」と声を掛けます。そしてお別れの日の「帰り道」に、恩人との絆を象徴するものでもある歌、「新しいメロディー」が浮かんで、「ふっと笑った」。
…意味が通ってしまった。続いて2番のサビと大サビについても考えてみたいと思います。
・時系列として、2番<歌詞参照はこちら>は1番よりも時が経った時点と考えられます。恩人に向かって「あばよ」というのかという点、少し引っかかりますが、突然会えなくなってしまった虚しさから「会いたくなるぜ」、でもまだ「僕ら」が恩人のいる世界(天国)へ行く日までは「今はまだ早いね」。お墓の前で静かに対話している光景が思い浮かぶ気がします。また、続く「止まらないリズム ふと感じた」は、1番の「メロディー」と対になっているようです。私は、この「止まらないリズム」から、《心臓の鼓動=「生」の象徴》を連想しました。「今はまだ早いね」とも意味的に矛盾しないように思います。
大サビ<歌詞参照はこちら>では、かなりの月日が経ってついに「僕ら」が旅立つ日と考えられます。旅立ちでも恩人のところへやっと行ける、「寂しくなんかないぜ」。そして、残った人たちに、また違うどこかで会おうと誓う。「あの日の僕らが 待ってるって 見守ってるって」は、今のこの別れの光景を、恩人の「あなた」を見送った「あの日」の光景と重ね合わせているように取れます。そして、「『待ってる』」「『見守ってる』」という、「あなた」の「懐かしい声」を聴いて「立ち止まる」。ここで「僕ら」は「あなた」に幾星霜を越えてやっと会えた、ということが分かり、物語が終了するとも捉えられます。
ずいぶんと壮大なストーリーになってしまった気はしますが、意味はなんとなく通ったかなと思われます。

【考察②】「あなた」は想い人…?

実は『to you』、恋愛ソングだった?という考察です。作詞1作目にしてすでに、『乗り越しラブストーリー』という珠玉のピュアな恋愛ソングを書かれた重岡さんですから、恋愛ソングという線もありなのでは…?という筆者の妄想の末生まれた解釈です。

1番<歌詞参照はこちら>について。別れは別れでも、フラれるという意味合いではなく、始まりは単に仕事や就学の関係などで遠くに行ってしまうという、距離的な別れなのではないかと思いました。なので主人公には遠距離恋愛中のカップルがしっくりくる気がします。「僕は僕で 待っていて 見守って」から、パートナーである「あなた」は「僕」より一歩先にいる存在で、「僕」は「あなた」の背中を追いかける立場なのでしょう。1番から想像するのは、遠距離になるその日か、一旦戻ってきた「あなた」がまた帰ってしまう場面です。なので、「寂しくなるぜ」「恋しくな」るというセリフは、恋人と離れ離れになる心情を映したものでしょう。そして「じゃあな~旅立つ背中に」までは、遠くに行ってしまう「あなた」に掛ける「僕」の励ましの言葉と捉えられます。「あなた」へのはなむけにピースサインを贈る「僕」。なんだかほほえましい光景です。このあと、隣に「あなた」のいない一人だけの「帰り道」。寂しさを紛らわすように「口ずさむ」と「新しいメロディー」が不意にできた。全体的に意味は通りそうですが、この解釈で考えると、ここの「新しい」という形容詞に少し違和感を覚えます。
2番とサビ<歌詞参照はこちら>はどうでしょうか。「いつの日か~お前の夢 笑わないぜ」から、パートナー側が大きな決断をして、進路を転換したのではないかと読めそうです。そして少し2人の関係性が変化したのではないでしょうか。サビでは「僕」は「あなた」に会いたいという気持ちを押えて、会うのは「まだ早い」、相手に釣り合うようにならないとと自分に言い聞かせているように聞こえます。「あばよ」は夢に向かい、どんどん離れていく「あなた」の背中に向けた言葉に見えますし、「一人帰り道」の「」とは道路というより、違う進路、人生の道という意味の「である気がします。また、「帰り」と付いていることから、「僕」は「あなた」を追いかけてきた人生を引き返しているのではないでしょうか。そして「止まらないリズム」とは、「あなた」が新しい道を進んでゆくテンポのことを指し、「僕」はその差を痛感している。どうも、1番では単なる遠距離という距離的な別れだったものが、ここで心理的な別れになってきているように感じます。
・前向きなメッセージと捉えられるCメロ<歌詞参照はこちら>ですが、この視点に立つとニュアンスが少し変わるもかもしれません。前半は「僕」のもやもやした気持ち、そして「なんだっていいじゃん」がつっけんどんに聞こえてきそうです。
大サビ<歌詞参照はこちら>はいろいろな解釈ができそうです。1つは別れる決心がつき、相手に別れを告げる場面という読み方。このとき「僕」は別れに対して前向きです。これは「旅立つ僕ら」と旅立つのが複数形「僕ら」であることより、「僕」にも人生の目標ができたからと考えられます。この場合、後半の「あの日の僕らが~」を上手く説明できないのと、「懐かしい声」の主について解釈が分かれるように思います。2つ目の解釈としては、2番から紆余曲折あって、「僕」と「あなた」が結ばれるという展開です。「じゃあな~」「またな~」は過去へ別れを告げ、「旅立つ僕ら」は過去から旅立ち未来へ向かう2人、「あの日の僕ら」は1番や2番で関係性に悩んだ僕らであり、過去の経験が今の僕らを支える力になっていると読み取れます。一方「一人帰り道」の情景説明、「またな またな 今じゃないどこかで」が少ししっくりこないこと、2番からの飛躍が大きすぎることが難点と思われます。

第1章含め、いくつかこの曲の解釈をお伝えしました。個人的にはもっとたくさんの解釈があるし、まだまだ語れる気がしています。もっと発展させようと思うと、一番と大サビが関連していることに注目して、一番サビと大サビが同じ情景を違う視点から見たものと捉えることもできそうなのですが、今回は割愛とします。
皆さんはこの曲に、どんな解釈をお持ちですか?

【2】気になったところ

読んでいて気になった箇所の思考や推察をまとめたメモです。あまり上手くまとまっていませんが、解釈の一つとして書き留めておきます。

①『to you』の裏テーマ?

裏テーマといっても、悪読みするわけでは決してないので悪しからず。では何か。
『to you』の歌詞って「足」に関係するワード多くない?ということです。

多分「えっ?」ってなると思うので、ちょっと挙げてみますね。

・足元 ・それぞれの道 ・歩いてく ・一人帰り道 ・信じてる道 ・進むんだ ・立ち止まる

1つの曲中にあると考えると、けっこう多いのではないかと思います。「足」「道」「歩く」「進む」「立ち止まる」など、全部「足」が関係する動作だったり、単語だったりします。足は前進するイメージで前向きな印象もあったりしますね。今「足」に関係する言葉を挙げましたが、『to you』には「光」に関係する言葉もいくつか見られます。光も明るい印象がある言葉です。テーマは「別れ」と言いつつも、その奥には「別れ」を乗り越えて明るく前に進んでほしいという願いがあるのではないかと感じます。もし意識されて書かれていたなら、余計に素敵ですよね。

②最初と最後の歌詞のリンク

『to you』は始めと終わりの歌詞がリンクしているように見えます。

(歌い出し)

思い出し笑いできるんだ

あの日々僕の足元を照らすんだ

(歌い終わり)

思い出し笑いできるんだ

この日いつか足元を照らすんだ

歌詞を見てみると、どちらにも「思い出し笑い」と「足元を照らす」が共通して入っています。違いとしては、始まりは「あの日々」に対し、ラストは「この日いつか」となっている点です。また、メロディの印象も全く違い、始まりは明るく、終わりは落ち着いた印象があります。
いろいろ解釈は分かれそうですが、注目すべきは、前者が「日々」と複数形、後者が「日」と単数であることでしょう。今までの解釈や一般的な指示語の用法も踏まえて考えると、「あの日々」は様々な思い出のある過去、「この日」はピンポイントに別れの日(大サビで描かれる日)と考えられます。どちらも「思い出し笑いできるんだ」から続く部分なので、この主人公にとってはどちらも良い思い出なのでしょうね。次にメロディに注目すると、終わり、つまり別れの日を振り返る方は落ち着いた曲調になっています。ここから推察するに、別れを乗り越えることで「僕」は成長できたのでしょう。別れに対しとまどいを感じさせる1番や2番の歌詞と比較しても、これは解釈的に良さそうです。この曲は、別れへの悩みや経験を通して、別れを「良い思い出」として達観できるようになった「僕」の物語と捉えてもよいのかもしれませんね。また、これが一つ大きなメッセージにもなっている気もします。

③「夜明けの魔法」って?

「夜明けの魔法」。初めて聴いた時、これも少し引っかかったワードでした。「夜明け」に「魔法」という組み合わせ、日常に非日常が飛び込んでくる感じがして不思議で。「夜明け」は、先述の「光」に関係したワードの一つです。しかし明るさを印象づけるだけでなく、そのままの時間的な意味もあるのだと思います。この国で別れの季節といえば3月。式とかに行くのに朝起きるとしたら6時とか7時とか?ちょうど日の出の時間に重なりますよね。「夜明け」は別れに向かう日の朝を指すと考えられそうです。
「魔法」の方は難しい…。普通に「おまじない」と捉えられもしそうですが、そんなに単純でいいのか…。考え甲斐がありそうです。「おまじない」なら、朝起きて窓の外に見える朝日になにかを願う姿、なんか想像に難くない気がしますが。「夜明けの魔法」ってなにか言い伝え的な何かがあるのかなとかも思ったりしましたが、調べた限りでは分からずじまいでした。

④虹色

1番サビ<歌詞参照はこちら>の「虹色のピース」の「虹色」です。第1章でも触れましたが、この「虹」は直前のフレーズ中にある、空に描かれた「放物線」のことを指します。しかし、もっと特別な意味があるのではと考えてしまいます。これは「虹」がWESTさんを指す言葉として使われているからです。「虹」はジャニーズWESTのモチーフです。そして「虹色」はWESTのメンバーカラーの七色を指します。つまり、「虹色のピース」とはWESTさんのピースとも読むことができるわけです。こうなると「あなたに届け 虹色のピース」というフレーズ、もう感動なしには聴けません。またさらに、この曲が重岡さんの曲では初めて7人で歌ったものだということを鑑みると、エモさが半端じゃない。こんな記念の曲に「虹色」というワードを選ばれるあたり、重岡さんって本当に最高だなと思います。

まとまりのない感じで終わってしまいましたが、そろそろ第2章の締めとしたいと思います。読んで頂きありがとうございました。

とても長々と語ってしまいました!なんと14000字超…!!!私もこれはちょっとびっくりです笑 これからの運営は未定ですが、できたら次は『乗り越しラブストーリー』『バニラかチョコ』など恋愛ソングを攻めてみたいなと思っています!
最後までお付き合いいただきありがとうございました!それでは!

 

◆ご意見・ご感想・質問等ありましたらこちらまで!

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特に他の解釈やご意見を頂けた場合、ブログ上で検討会ができたらいいななど画策しているので、もし本ブログ上で紹介されても構わないという方は、お手数ですがその旨一言添えていただければと思います。